「……藤沢君?聞いているの?」
僕の名が呼ばれた。
凛としたその声に、意識が戻ってくる。
――普通教室と同じ広さに、長机とパイプ椅子が整然と並んだ部屋。
僕はそのパイプ椅子の一つに深く腰掛け、寝入っていたようだ。
「わたくしの話を寝ながら聞いているとは……卓越した技術と精神をお持ちね。いっそのこと世界ビックリ人間ショーにでも出ればいいわ」
この嫌味をつらつら読み上げている女生徒は田無アカネ。この学校の生徒会長。
「気持ちはわかるが少し我慢したらどうだ。今は真面目な話をしているところだぞ」
隣に立っている男子生徒が口を挟む。
彼は麻田。
誰も下の名前で呼ばないから麻田と呼ぶのが定着してしまった。
彼は生徒会副会長。
なのだけれど、その行動の半分は冗談の費やされているこの学校の奇人。
文化祭で無許可に花火を打ち上げたこともあった。
その件は誤魔化したり、あとで許可を取ったり……それでも麻田は涼しい顔をしていた。
「ごめん」
ええと、言い訳は。
「……会長の話が始まる前から寝ていたんだ」
「そっちのほうが不誠実よ」
そして僕が生徒会書記の藤沢ショウタ。この中でも一番の常識人だと心得ている。
この三人は同じ二年生。
文化祭も終わり、生徒会は予算をまとめ次学年の引継ぎの準備をまったりしているところである。
そんな中で麻田が言った、真面目な話、というのはどうしたものだろうか。