私のかわいい後輩君


「…んっ…。」


「ちひろが目覚めたみたいね。今日の話は、内緒だから。」


「わかり…ました…。」


「ここ…は…?」


「保健室よ!あんた倒れたんだよ」


わかった。
春瀬先輩が北川先輩のことをどれだけ信じているのか…。


北川先輩が春瀬先輩をどれだけ心配しているか…。





北川先輩と春瀬先輩の絆は、思った以上に深く…




また、春瀬先輩の心の闇も深かったんだ。

偶然を装って春瀬先輩と仲良くなりたい。

それが、俺の小さい夢だった。

春瀬先輩は、男嫌いかもしれない。



でも…
そんなの俺には、関係ない。


「先輩の…」


「う…梅崎くん?」


「先輩の男嫌いは、俺が治して見せますから……」


俺は、そう叫んでいて……



気がつくと廊下を走っていた。



ただひたすらに……


がむしゃらに……



俺は、前に進もうとしていた。



春瀬先輩の男嫌いは、俺が治してやるって思えたから…







春瀬先輩。










この世界には、数えきれないほどの男がいる。






あいつだけが、男じゃない。






だから、俺と一緒に頑張っていきましょ?





それが俺の儚い夢だった。


歩けば歩くほど、
辺りは暗闇で……。


叫んでも
誰もいなくて……。


でも、
立ち止まる勇気は
なくて……。




気がついたら
『近づかないでーー』
って叫んでた。



いつになったら、あたしはこの暗闇から出られるんだろう……。





「…んっ…。」


「ちひろが目覚めたみたいね。今日の話は、内緒だから。」


み…実咲…と…


「わかり…ました…。」


う…梅崎…くん?


「ここ…は…?」


「保健室よ!あんた倒れたんだよ」


「そっか…」


倒れた……

そうだ結局倒れちゃったんだ…。


情けないな……。

たかだ、ちょっとの足の痛みだったのに。


「で、実咲がここまで運んでくれたの?」


「ううん。梅崎くんよ…」


梅…崎くんが…?


「そっか、ありがとう。」


「いえ、対したことしてませんから…。」



実咲と梅崎くんは、二人で何の話をしてたんだろう?





「先輩の…」



…………

………………ん?




「う…梅崎くん?」



いきなりどうしたんだろう。



「先輩の男嫌いは、俺が治して見せますから……」



え?


どうして……


知ってたの?



梅崎くんは、そう叫ぶと走って何処かに行ってしまった。



静まり返った保健室。


さっきまで、体育祭の後片付けをして、生徒たちがガヤガヤしていた校舎も静まり返っていた。




『「先輩の男嫌いは、
 俺が治して見せます
 から……」』


さっき言われた台詞が頭から離れない。








でも、嬉しかった。










暗闇から抜け出していけそうな気がする。



あたしの暗闇だけの心の中に明るい光が差し込んできた、体育祭だった。



春瀬先輩の過去を聞いて数週間がたった。

この数週間の間、俺はずっとひっかかっていることがある。



それは……



神崎先輩のことだ。

あの日、北川先輩が知らないところでなにがあったのか…?


真実を確かめたい。


春瀬先輩の男嫌いの真実を……。


「北川先輩いますか?」


「実咲~。なんか、イケメンがご面会だよ~」


俺は、思い立って昼休みに北川先輩のクラスに行った。


「すみません。こんなこと北川先輩に聞くのは、気が引けますが…」


「何?」


「北川先輩。か…神崎先輩って今どこにいるか知っていますか?」


「ま、そろそろ来るころかと思ってた。」


ここで、俺なんかが神崎先輩に会ったところでなにかがかわるってわけじゃない。


でも…。


それじゃ、いつまでもたっても春瀬先輩は、男に壁をつくってしまう…。


「桜丘大学……。桜丘大学にいるって…」


「ありがとうございます」


桜丘大学…


そこに…


春瀬先輩の男嫌いの原因になったやつがいる……。

待ってて下さい。

先輩の男嫌いは、俺が絶対に治しますから…。

そして、放課後桜丘大学に足を運んだ。


「すみません。」


「ん?」


「神崎さんっていますか?」


「神崎…って神崎大翔?」


「はい…」


「確かあいつ…ちょっと待ってて。呼び出すから…」


そう言うと、優しそうな大学生は、電話をかけだした。


10分たって、神崎って呼ばれている人がきた。