あの、神田瑠璃が?!


あのって言ったってそこまで深く知ってる訳じゃないんだけど……


でも、結びつかない。コンサート会場で見た中学生のようだ、と俺に印象を与えた子供っぽさを残した凛として汚れのないような姿と。



「でもさ、そんなんで失望とかすんなよ、陵」


俺の思考を読み取ったかのように、総が言った。


「え?」


「ピアニストが貞淑でなけりゃいけないなんて誰が決めた?…それで『こんな人だとは思わなかった』とか言われても、それは単なる理想の押しつけじゃん?って、俺、今結構格好いいこと言わなかったか?」


「あぁ……うん」


格好いいこと言ったけど、最後の一言でだいなしだ。


「あ、そんでお前ら、今日泊まってく?」


「え?」


「結構遅くなりそうだろ?予定空いてるなら泊まっていけよ」


「俺は多分いけるよ!陵は?」


「〆切が…近いからなぁ…」


「あぁ…でも、明日の朝、瑠璃さんの演奏聞けるかもよ?」


「っつ…泊まる!兄さんに電話するよ!」


「お前ってほんとブラコンだよなぁ…何かあっても親じゃなくて兄さんだもんなぁ」


「うるさい!ブラコン言うな!」


俺はブラコンじゃない。


断じてブラコンではない!


確かに兄さんには憧れているけど(ちょっとだけど)。


何かあったとき頼りにするのは兄さんだけど。


ブラコンではないんだ!