……すごい。



素人の俺にも分かる。




力強いメロディーに隠れることなく調和するすごく速い音の連続。


全体的に、こう……なんていうか……すごく激情的で熱さを持った演奏だった。


音楽に引き込まれると言うのはこんな事をいうのだろう。


思わず手をぐっと握りしめた。


凝視しても聞こえる音の大きさや速さは変わらないというのに、演奏者から目が離せない。


最後の音の余韻が消えた瞬間、大拍手が響いた。


演奏者…神田瑠璃は椅子から立って、また美しい所作で礼をした。


その礼に合わせて拍手が一段と大きくなり、俺も兄さんも力一杯手をたたいた。


そしてその手が湿っているのに気づいた。あ、俺、こんなに汗かいてたんだ…。



拍手が一旦収まったところで、彼女はもう1度椅子に座り直し、また間を置いて演奏を始めた。


響くのは美しい高音。


『ラヴェル・組曲「鏡」より道化師の朝の歌』


さっきとは全く違う音色だ。


………速い。鋭い。美しい。

指、どうなってるんだろう…。どうやったらこんなに速く動かせるんだ…?

間近で見てみたいなぁ…。


思わず「あぁ…」と感嘆の声を漏らしてしまった。


曲が終わり、また大拍手。


そして彼女は司会からマイクを受け取り、一礼の後、話し始めた。



「今回は、私のコンサートにお集まり頂き、ありがとうございます」



高くもなく、低くもない丁度良いぐらいの声。


綺麗な声だなぁ、とぼんやり思った。