夏も終わりに近づいたある日、私が散歩から家に帰ると祖母が玄関でうつ伏せに倒れていた。
「どうしたの婆ちゃん!」
「なんでもないよ」と言いながらも、かなり辛そうな顔をしている。
「頭が痛いの?」
「そうだねぇ。でもちょっと横になれば治るから」
 私は祖母をなんとか寝室まで連れて行った。
「バファリンあるから、ちょっと待っててね婆ちゃん。バファリン飲んだらきっとすぐ治るから」
「ありがとね」
 バファリンどこ、と呟きながら自分の鞄をひっくり返して探した。どこにもない。持ってきたはずなのに。そういえば祖母の家に来てから頭痛は一度も無く、今日まで一度もバファリンは使っていなかった。
 助けを求めて母に電話した。
「バファリンどこ?」
「なに? どうしたの? また頭が痛いの?」
「バファリンどこ!」
 泣き喚く私に異常を察知した母は「泣くんじゃない。すぐ行くから待ってなさい」と、私に言い残して電話は切れた。