「冗談じゃねえ。あいつらが…」

「善」



スガヤが手を上げて制した。
俺は口をつぐむ。



「現に海江田が死んでるんだ。誰かがお前に偽の資料を渡し、諸星の替え玉を作り上げ、海江田を殺した。
立派な裏切り行為だろう?」



淡々と言い放ったその目に迷いはない。
憎しみや、怒りさえも。


ただ、静かに光るだけだ。




俺は項垂れた。

何を好んで、自分の仲間を疑わねばならないのだろうか。

一緒に任務をしたこともある奴らだ。


まさかそんな奴らが、裏切りなんてするとは。



初めてのことだけに、俺の動揺は大きかった。



「わかったよ、俺が悪かった。…それで、具体的には何をすればいいんだ?」

「お前は頭がいいから助かるよ」



それはさっきも聞いた。

項垂れる俺を嘲笑って、スガヤは説明を続ける。



「まずここに潜入してほしい」



今度は簡単な地図を取り出す。
大きな繁華街の隅にある建物に目印がついていた。



「Bar grimoire(グリモワール)?」

「そうだ。簡単に言えば会員制のバーだ」

「ここになにがあるんだ?」

「まあまあ。見当はついてるって言っただろ?そいつがな、たまに来るらしいんだよ」

「そいつ…?」



俺がそう聞くと、スガヤはこれまた楽しそうにほほ笑んだ。

それが獲物を狙うハンターの瞳に見えたのは俺だけだろうか。






「ヨコイだよ」






ヨコイ。



…その名前を、俺は知っていた。




厄介なヤツだ。


関わってろくなことはないだろう。