「その海江田がな、殺された」

「…なんだと」



依頼者が殺されるなんて、前代未聞だ。

胸がざわつく。




なんて面倒なことが起きたのだろうか。



「それだけじゃない。諸星は生きていた」

「嘘だろ!」


ダンッ!!


机を叩いた音が響く。

スガヤは相変わらず涼しそうな笑みをうかべて、アルコールの入ったグラスを口に付けた。


「嘘じゃあない」

「でも翌日の新聞には死亡と書かれていた」

「確かに死んだが、あれは諸星の替え玉だな」

「そんなはずはない。俺はちゃんと資料どおりの男に手を掛けた」




荒くなる語尾を抑えて、俺はスガヤに食いつく。

これでも俺は、依頼を失敗したことがない。

もちろん今回の依頼も予定通りこなしたはずだった。




「まあまあ、善。お前は間違いなく依頼を成功させているよ。安心しろ」


言われたことが理解できない。
俺はスガヤを睨みつけることしかできなかった。


改めて、黒い革のソファに座り直す。

深く溜息をついた。



「…一体、どういうことだよ」

「はは。だからな、お前の手に渡った資料。あれがな、偽物だったんだよ」

「偽物だと?」

「そうだ。本当の諸星は、こいつだ」


そう言ってスガヤは一枚の写真を取り出した。
隠し撮りしたかのような、横顔の写真。

しかしそれだけで、先日葬った男とは違う人間だというのがすぐに分かった。



「クソッ。まんまとはめられたわけかよ。誰だ、その裏切り者ってのは」

「焦るな。見当はついている」

「はやくしろよ」


俺が急かすと、スガヤはふうとため息をついた。


「まず、この依頼を知っているのは俺とお前。あとは、ヨージとタキだけだ」

「おい、まさかそのなかにいるんじゃねえだろうな?」

「ま、そういうことになる」