スガヤ。
本名なんて、知らない。
この男に関することは、謎に包まれてている。
確か年は40代と若手だ。
しかしこの業界に手を出しはじめたのが10代だったせいで、スガヤの出世は伝説的なスピードであった。
俺の人生で一番長い付き合いではあるが、この男について知っていることなんて、ごくわずか。
ヘビースモーカーで、煙草には煩い。
そして冷血で、狡猾。
胡散臭い笑みを浮かべながら、平気で引き金を引くことができる男。
まるで人を人と思っていないような、男だ。
「まず、この話の経緯からいこうか」
「…ああ」
スガヤと出会って十数年。
こんなに楽しそうな表情を見るのはアレ以来だ。
…アレ。
そう、あの月の明るい夜。
俺の初仕事の日。
「この間取引があっただろう」
「海江田とのか」
「そうだよ。結構な額が動いたやつだ」
「それがなんだよ?」
海江田とは、俺たちの事務所の付近を拠点とする政治家だ。
まだ40代と若く、頭の切れる奴である。
そんな男に依頼を受けて、俺たちは同じく政治家である諸星という男を闇に葬ったのだった。
強い影響力を持つ海江田とは違い、地味な活動が多かった諸星。
正直、いま力を伸ばしてきている海江田が敵にするような人間ではないと思ったが。
まあ、変に介入する気などさらさらにないし、俺にとってはどうでもいいことだった。
組織は深入りはしない。
ある程度の距離を保った状態が、一番ベストだからだ。
俺達に依頼をしてくるような奴らはどうせロクなことを考えていない。
あまり深く入りこめば、いらない疑いや事件に巻き込まれる。
俺はそれをよくわかっているし、他のメンバーもそう。
深入りをしない。
詮索をしない。
そういう点もまた、この組織を固めている要素なのである。