近頃は分煙、分煙とうるさい。
公共の場はもちろん、飲食店や社内でもそれは同じだ。
おかげで喫煙者は、肩身の狭い思いを虐げられる。
それを思えば、ここは天国だ。
俺は自分の指にはさまる煙草に火を着けた。
「よし、説明するぞ」
ボス――スガヤのその声に、俺は頷く。
久しぶりに訪れたスガヤの自室は、昔とほとんど変わっていなかった。
もちろん、嫌に緊張する空間という意味でも同じだ。
「率直に言う。裏切り者がでた」
「はあ?」
俺は煙草を落としそうになる。
この組織に入ってだいぶ経つが、裏切りは初めてだった。
どこのバカがそんなことをするのか。
「誰だよ。ソレ」
スガヤがどうりで楽しそうなわけだ。
コイツは人間を玩具だとしか思っていない。
裏切りなど、ゲームにしかすぎないのだろう。
俺達の組織は優秀だ。
暗殺、窃盗、麻薬、賭博、詐欺、工作。
金さえ積めばなんでもやる。
メンバー全員を知るのは、ボスのスガヤだけでメンバー間の接触は少ない。
だが影響力はかなりでかい。
スガヤの手腕を見ればわかる。
おかげで依頼の殆どが、金のある地位を持った人間ばかり。
社長や政治家、芸能人やヤクザ、マフィアなど。
幅広い業界のトップが俺たちに頼っている。
そんな組織で、裏切りなんて。
自殺行為としか言えない。
「まあとにかく話を聞け」
スガヤはそう言うと、向かいのソファに座る。
ニヤニヤと笑っているのを見て、本物の悪魔だと思った。