…音もしなかった。
いや、気配すらも。
…だから俺はこの男に勝てないんだ。
「あー、くそっ…はずんでくれるんだろうな?」
そう吐き捨てると、背後の重圧が消えた。
渋々振りかえれば、満足そうな笑みを浮かべた男が、銀色の拳銃を撫でていた。
「お前は頭がよくて助かるよ。もちろん見合った待遇は用意するさ」
「休暇もな」
「休暇な…仕事は山ほどあるんだが。…まったく、お前は十分に特別扱いをしてやってるのになー」
「いいだろ、俺はそんだけの仕事はこなしたつもりだ」
はは、と乾いた笑いとともにぎらりとした男の目が俺を見据えた。
「まあなあ。お前はうちのエースだ。頼りにしてるよ」
「おかげ様でな」
男はそれから、俺が回すはずだったドアノブを手に取り部屋の外に出た。
「俺がここまで足伸ばしてきたんだ。ただごとじゃないっていうのはわかっているだろう?」
きたな。
これだから、今日は帰りたかったのに。
「まあな」
そう答えると、男はにやりと笑う。
いつにも増して楽しそうにしてやがる。
相当、でかいことが起こったのだろう。
俺はこれからの自分の役割を思って、心の中でもう一度溜息をついた。
「では、行こうか。本部へ」
「…ああ」
「続きはそこでだ……善」