ただ1人を除いては…
「ゆー。起きたんや」
「…うん」
「昨日は大丈夫やった?」
「…火傷するかと思った」
「昨日は大変やったんやで。
いきなりゆーが服を脱ぎだすからさ、涼さん達吃驚してさ、俺らも吃驚したわー。
涼さんが昨日服を着せてさ、これだったら脱げないだろうって」
たっつんはあたしが着てる服を指さした。
「あ…」
長いロンティに長いズボン。
「ってか! あたし、服脱いだの!!?」
「あ。やっぱ覚えてへん?
顔真っ赤だったからな~」
「マジですか…」
「ホンマ。心配あらへんで、涼さんが隠してくれやったん。尊敬するで。涼さんは…」
涼、隠してくれたんだ。
「優しいし、親切やし、ケンカ強いし、無愛想やけど、心広いし。第一!
かなりの美形やん?
他の人と、オーラーが違う…みたいな、やろ?」
「そだね。涼には人を引き付ける能力があるだよね」
涼の頬を軽く突いた。
「なんでこんなに優しいんだろ…」
「…なぁ。もしかしてやけど…ゆー涼さんに惚れてるやろ?」
「な、なな何で?!」
「ぶっ! …図星……」
たっつんは微笑んでから「大丈夫や! 誰にも言わへんて!!」と言った。
「…たっつん! ありがとっ!!!!」
あたしはたっつんに抱きついた。
たっつんは焦って「ちょ、何やってん?」と言った。
「イヤ?」
「え、イヤやないけど…」
「1番の心友だよ!!!」
「ホンマ? ありがとな!!」
ニカッて笑ってピースした。
たっくんは顔を赤くして、あたしをジッと見てた。
「どしたの?」
「な、なんでもあらへん!」
「たっつんっ! そういえば前ね…」
その後も変な話とか、色んな話をした。
みんなが目覚めた所で、部屋に戻って涼といっぱい話して、眠った。
その次の日も、みんなで遊んでみんなで食べて、みんなでじゃれ合った。
こんな日が続くと思ってたんだ…。
―――あの日まで。
――8月の初め
あの日以来、たっつんとまーもーとたまに会って、遊んで話をしてる。
今日はみんなで散歩っと言う事で、ダムに向かってる。
たっつんと、まーもーも一緒。
「ゆー。本当にお菓子好きだな!」
「だって、あるのは食べないと…じゃん?
たっつんもでしょ?」
「…それがお菓子だったら…だろ?」
涼はあたしからポッキーを一本取り、食べる。
「涼は分かってないな~!」
「…分かりたくない」
なっ!
「涼のアホっ!!」
でも、涼は冷静で。
「…少なくても優よりアホじゃない」
「聞き飽きたっ!!」
そんなあたしを見、呆れた顔をする皆。
「ゆー。言われ過ぎだよ…」
「まーもー! 涼が意地悪~!」
翔はあたしを見、笑う。
「はは。優おもしろ~いっ!」
「翔! ふざけてるんじゃないんだよ!?」
涼をムッと見ると、スルーされた。
「…優。五月蠅い」
「涼のポンポンパー!!」
「…なんだ。ポンポンパーって…」
「う、五月蠅い!!」
「楽しそ~! 俺も混ぜて!」
「陸~!!可愛い~!!!」
「カンケーないじゃん…」
「「ホンマ」」
陸に抱きついてる。
陸はあたしを引きずって歩いてる。
今の所ケンカはないし、安全だ。
でも、
この後起きる悲劇を誰も信じようとしなかった。
―――いや。
信じたくなかった。
ダムで遊んでると、ダムの水と共に赤い水が流れてきた。
あたしが不思議に思ってすくってみると。
―――匂いからでも分かる。
「血だ…」
「ホンマや…」
みんなも驚いてる。
上流の方からだ。
上流へと、駆け出した。
「優っ!!!」
涼達も後を追ってくる。
目にしたのはみすぼらしい姿の犬だった。
犬は血を流してて、横たわってる。
駆け出した。
犬は一生懸命生きようと、息をしてる。
「頑張れ。
死ぬんじゃないぞ!!!」
犬を抱えあげた。
その時思った。
この犬、何でケガしてるんだ?
ダムの水をすくい、犬の傷口に少したらす。
一瞬で分かった。
犬の腹に、カッターの刃が刺さってた。
罠だ!!!
気づいた時には、遅かった。
後ろから走ってきた人。
振り返ると、お腹に鋭い激痛がほとばしった。
視界に映る、犬と同じカッターの刃。
刺した人の顔を見た。
見覚えがある。
だって、その人はあたしが潰した族の総長だったから。
「み、溝川…」
溝川はフッと笑って走って行った。
犬が危ない。
どうしても、犬は助けたい。
震える手で犬を抱えて、ここから近い動物病院に向かった。
足を動かすたんびに、その振動で迸る激痛。
痛すぎて、麻痺してきそうで。
意識なんか、スグに飛びそうで。
でも、この犬の命は大きくて。
病院に着くと、受付の人があたしを見るなり病院に電話をかけた。
「お…願い……こ…の犬を…助け…てっ……」
「わ、分かりました!
あなたはそちらにいてください!!」
受付の人が犬を連れていくと、動物病院の外に出た。
「優っ!!」
見覚えのある人達が駆け付けて来た。
「良かった~。
ホンマ、心配かけへんでや!」
「優が犬を抱えて走り出すから何やと思たわ」
「ゆー、早く行こっ!!!」
皆の笑顔を見、色んな気持ちが溢れ出す。
涼があたしの異変に気付いた。
「……優、手どかせ」
あたしは涼を見る。
出来るのなら、気付いて欲しくなかった。
でも、やっぱり涼の目は、全てを見透かしてる様で。
「優っ!」
「な、なんや、涼。そんな大声出してっ…」