「そんな彼女に私が惹かれるのは、ごく当たり前の事であろう。私は彼女に自分の妃になって欲しいと告げた。彼女は少し戸惑った後に首を静かに縦に振ってくれたのだ。この国では身分や生まれ、育ちの事などさほど気にする者など居ない。皆、大事なのは中身だという事を心得ていたからな。だから、民衆も城の者達も快く彼女を受け入れた…」


今まで幸せそうに語っていた父の顔が苦痛に歪むのを、マリーは見逃さなかった。


王の眼が遠く闇夜を見据える。


「しかし彼等は私達の幸せを許さなかったのだ…」


「彼等?」


マリーの問い掛けに父王がゆっくりと頷く。


「闇に棲む者達だよ…」


その答えに、マリーは今まで忘れかけていた『母が闇に棲む者だった』という父の言葉を思い出した。


「お父様、『闇に棲む者』とはいったい…」


今度はムスメの問い掛けに男が答える。


「魔族という事だ…」と。