「明日はきっと綺麗な満月だわ…」
一人の少女と言うには難しい憂いを帯びた影が、窓の外に見える闇を仰ぎ呟いた。
「マリー、今日も月を見てるのか?」
背後から低くそして優し気な声がして少女は呆れ顔で振り返る。
「お父様こそ、毎晩こうして娘の顔を見なければ眠れないだなんて…。いい加減子離れしてはいかがですか?」
言葉こそ冷たいものの、マリーの声音には愛情が充分に感じられた。
それを汲み取ってか、お父様と呼ばれた男はマリーの傍らに立つ。
綺麗にウェーブのかかった黄金色の髪、上質な絹のようなきめ細かな白肌、今の闇夜とは正反対の昼間の空を思わせる瞳、しなやかに伸びた手足に少女と女の狭間であるなだらかな曲線。
既にこの世からいなくなってしまった妻と見間違う程に、マリーは美しく成長した。今日しかない…、今日言わねばならない…。
男の脳が語るそれに心が応じず、男はそっと少女の黄金色の髪を撫でた。