侍女が居なくなった事で、一人称が『私』から『僕』になった弟にマリーは優しく微笑んだ。
「ヨーゼフ、私もあなたが大好きよ。でも、私達は姉弟だもの、結婚出来ないわ…。いつか素敵な女性を見つけて、立派にこの国を治めてね…」
ヨーゼフは姉の言葉に一瞬寂しげな表情を見せたが、何も言わず首を縦に振った。
ションボリと肩を落とす弟を見て、マリーは胸が痛んだが、しょうがない事だ。
マリーは慰める様に優しくヨーゼフを抱き締めた。
その時、扉の外が騒がしくなった。
何人もの足音がマリーの部屋に近づいてくる。
ーいったい何があったのかしら?ー
マリーは不思議に思い、ヨーゼフをソファに座らせ扉に手をかけようとした。
バタンッ、と扉が勢い良く開く。
開けたのはマリーでは無い。
マリー付きの侍女、シンディだった。
驚いて固まっているマリーにシンディは早口で捲くしたてた。
「マリー様、ヨーゼフ様!お逃げ下さい!魔族がすぐそこまで来っ…ぐぁっ…ーー」