「ご歓談中失礼します。紅椿と思われる御方が新撰組に捕らえられたそうですよ。今、さっきです」



 その言葉に会話は止まり、沖田さんも丑松殿も中村殿を眺めた。紅椿が捕まったと、彼女は今そう言ったのだな。心の中で密かに確認をしてから俺は息を吸った。

 だが言葉は出ない。俺は自分が思った以上に動揺してるらしい。



「椿、誰が捕らえられたって?」


「紅椿と思われる御方です」


「何か知ってるかい、総司」


「知りませんよ。だって今日は非番ですし、紅椿って事は土方さんが捕らえた訳でもないでしょう」


「じゃあ誰だろうね。忍が捕まるわけないし、宗柄だって捕まるくらいなら舌噛んで死ぬだろう」



 大和屋はそんなに簡単に死を選ぶ男ではないと思うが。まあ捕まらないのは同じ意見だったので、口を挟むのは止めておいた。

 だが捕まった紅椿とやらが気になって仕方ない俺は、茶を急いで飲み干して立ち上がる。



「少し様子を見てきます」


「なら俺も。内部事情で何か分かる事があるかも知れませんしね。ご馳走様です椿の姉さん」


「お粗末様。いってらっしゃい」



 中村殿が戸を引くと、俺は飛び出す様に外に出た。沖田さんはそんな俺の後を歩いて着いて来る。

 急ぐ気なんて更々ない。そんな感じである。心配していないのだろう。さっきの会話ではどうやら捕まっている人は紅椿の面々ではないらしいし。しかし、俺は。



「瀬川の兄さん、遠回りしましょう。もし捕まったのが偽者なら今回の件を詳しく知ってる男がいるはずですからね。こっちです」



 それはつまり大和屋の事だろうな。そんな事を考えながらも、俺は足を止めて沖田さんの方へ行った。彼は細い路地へ入っていく。

 その方向はやはり、鍛冶『大和屋』がある方であった。