「総司、その幽霊騒ぎ本当か?」
「何ですか急に、そんな真面目な顔なさって。ただの噂ですよ、根も葉もない戯れ言です」
「……俺は、さっきここに人斬りが入ったと聞いてきたんだぞ」
総司は何かを言おうとして、ふと口を閉ざした。そうして彼は俺の目を真っ直ぐに見た。やはり何か裏があるらしい。俺が黙っていると総司は床下を指差した。
「子どもたちは床下から逃げました。俺が逃がしたんです。でも、誰がお言いになったんで?」
「誰でも良いだろう」
「良くないですよ……言った方は無情だ。人斬りって言う事は事情を見てたって事でしょう?」
「事情?」
「あの子らは人身売買されようとしてたんですよ。刀の試し切りと称した、斬られる為の身体です」
「それは」
「当然御法度ですよね」
だからと言って人を斬った子を逃して良いものか。いや、逃すべきなのか? 俺には分からない。俺は法の番人でも秩序の創始者でもないのだから。分からない。
総司は懐から血に濡れた小刀を取り出した。言わずもがなそれを子どもが握ったのだ。その証拠に小刀には小人の手形があった。
「土方さん、これは――」
総司が口を開いた途端、外から声が聞こえた。瀬川か誰かが心配して来たのかもしれない。下がっていろと言っておいたのに。
俺は息を吐いてから、考えた。
人斬りは確かにここに入っていた。瀬川も確かにそれを見ていると言う。だが人斬りと呼ばれたのは子どもで、情をかけた総司が子供を逃がした。残っているのは誠を背負った総司ただ一人。
これでは総司が人斬りだと言われてもおかしくない。島原では微かだが裏切り者の噂があるのだ。
違う話が混ざりあって、誠への不信感に拍車がかかる可能性もある。そればかりは見逃せない。
「総司、お前は何も喋るなよ」
「……分かりました」
俺は腹をくくって閉まっていた小屋の扉を開ける。そこには瀬川と中村と幾人かの野次馬がいた。
俺はまず、野次馬を散らす。