それは土方さんが島原も新撰組の眼下に置きたいからだ。なんて口が裂けても言える訳はなく。俺はただ苦笑いをしてこう言った。
「俺は昨日の状態を見てるんで、心配になって来ただけですよ。それに今日は一応非番の日ですし」
「そう」
吉原の旦那は昨晩、女たちが消えたと知って怒りを声にして空間にぶつけていた。あんな荒々しい旦那は初めて見たもんだから俺はしばらく何も出来なかった。
へらへらしているけどこの人は大人なんだと嫌程痛感したのは秘密だが。あれはらしくなかった。
「何があったんだ、吉原」
低い声でそう言ったのは大和屋の旦那だった。足を崩しているがくつろぐまでの格好じゃない。
俺は黙ったまま答えを待った。
「昨日の夜にね、華宮が夜帝の所に行くと言い出したんだ。俺が休む時間を確保する為にってね」
吉原の旦那はいつもの調子で語り出したが、京さんの方は見ない様にしている気がした。大和屋の旦那は聞いた割りには興味がなそうな感じだ。関心を見せない。
「その事については吉原中の女が知ってた。華宮の護衛には絹松がつくと言ってたし、俺は七日間程ろくに寝てなかったから休ませてもらう事にしたんだ。だけど」
「起きた頃にはいなかった、と」
「そう。京さんしかいなかった。夜帝に何処かへ連れて行かれたそうだよ。女たちは全員ね。俺はそれを知らずに悠々と寝てた訳だ」
悔しそうに顔をしかめた旦那は京さんを見て笑みを浮かべた。俺はふと紅椿の文を思い出した。
鬼神か夜帝か。
どちらかを倒せなんて言うのはもしかするとあの人が俺を試しているのかも知れない。試されているとは思いたくないけどな。失敗したらきっと殺されるだろうし。
「――成る程な」
「宗柄、夜帝について何か知ってるなら教えて。何でも良いから」
「行く気か、女を取り戻しに」
「当たり前でしょ。世の中はただの遊女だって言うだろうけど、俺には大事な母親たちだからね」
「そうか、なら」
大和屋の旦那はゆっくりと息を吐いてから、落ち着いた口調で吉原の旦那にこう言った。
「村崎の所に行け」