俺が辺りを見渡して巡回中の隊士を探していると主犯格の男が不意に笑いだした。俺と瀬川の兄さんは男を見て不思議に思う。

 この状況で笑うと言う事はまだ負けを認めていないと言う事だ。



「気味悪いですね。何ですか」


「時間通りに頓所まで行けなきゃ今の二、三倍の仲間がやってくる手はずになってる。敗けはお前たちだ、新撰組、沖田総司!」



 ふはは、とありきたりな悪役笑いを聞かせてくれた男。取り合えず柄で腹を思いきり殴り気絶させてやった。主犯は生かさなきゃ土方さんに怒られてしまうから。



「沖田さん、どうしましょうか」


「どうもこうも。向かって来るなら相手をするまででしょう。騒ぎが起これば隊士の一人ぐらいが気付いて応援に来るでしょうしね」


「大丈夫ですかね」



 何を恐れる事があるのだ。あの大男たちを瞬間に地面に伏せさせた世荒しが。俺は兄さんに笑いかけてから後に来ると言う男どもを待ち伏せた。時は静かに過ぎる。

 来ない、来ない、来ない。
 来ない、来ない、来た。



「沖田総司! 我が同胞を地に伏せた恨み、今ここで晴らしてやろうぞ! 行くぞ皆のもの!」



 通り掛かりの街人が男たちの声に驚いて逃げ惑い始める。俺はただ目の前に来る男を見据えて刀を握る力をよりいっそう強めた。

 ――だが。



「力を誇示してどうするんです」


「え?」


「沖田さんが新撰組として来ていなくても、貴方は新撰組の一員ですよ。世間は新撰組の沖田総司と貴方を認識していますからね」


「何が言いたいんです」


「ここは俺に任せて下さい。手柄が欲しければ差し上げますから」


「兄さん、あれぐらいなら」


「新撰組の沖田総司の仕事を全うしなければ、評判が下がるのは新撰組全体ですよ。まずは人々の安全確保をしなければなりません」



 心配しなくても俺は全員倒しませんから、なんて瀬川の兄さんは口角を上げて言っていた。楽しそうな顔をなさる癖に、言っている事はとんと的を得ている。

 確かにこのままやれば俺の強さは誇示できるが、被害は計り知れないし犠牲だって出るだろう。新撰組の評判はきっとがた落ちだ。