はは、とどこからか笑い声がしたと思って声の主を探したら、それは寄ってきた土方さんだった。何で笑ってんだろう、この人。
「無事で良かった。瀬川もな」
「瀬川の兄さんはまだ無事かどうか分かりませんよ。それに俺も」
「生きててよかったと言われるよりはましだろう。だいたい――」
ふと、視界がぼやけた。同時に土方さんの声も遠退いていく。疲れてしまったからか。それとも煙を吸いすぎて死んでしまうのか。
――考えるのさえ億劫だ。
俺は静かに目を閉じた。
夢は見ない訳じゃない。ただ何が原因か知らないが久しく見ていなかったから少しだけ驚いた。
俺の見た夢は昔に実際起こった出来事の再現だった。誰かが殺されていく、そんな物騒な夢。俺はなす術もなく見ているだけしか出来ない。怖いのに逃げられない。自分に力がないのがもどかしい。
だが所詮は夢、記憶と言う名の投影装置が若干故障しているに過ぎない。夢は暗示と言うが、俺は昔より強くなったしむざむざ誰かが殺されているのを黙って見ているだけなんて今じゃありえない。
「寝てろって何度言えば分かるんだ、おい誰かこいつを縛れ!」
「大丈夫ですよ、もう」
「医者がそう言ったのかよ。いいから大和屋が来るまで大人しくしてろ。あいつもすぐ来るから」
「ですが土方さん、俺は」
「お前が大丈夫なのはもう分かった。言い方を変える。総司が目を覚ますまでじっとしてろ」
すぱん、と勢い良く襖が閉じた音が聞こえた。口論に飽きて土方さんが出て行ったのだろう。
襖があると言う事は――ここは頓所だろうか。俺は瀬川の兄さんの深いため息を聞きながら状況を把握しようと努めてみた。うん、やっぱり頓所にいるみたいだ。
運ばれたのか?
「俺は行かなきゃいけないのに」
「それ、何処にです?」
「……沖田さん、」
「俺が目覚めたからって勝手に消えてもらっちゃ困りますよ。瀬川の兄さん教えて下さい。何処に行かなきゃいけないんですって?」