大和屋の旦那の話が終わって、ふと土方さんが本来の目的を思い出した。俺を見て「そうだ」と嫌な予感がする切り出しをする。
俺は何とか話を変えようと思って取りあえず声を出してみた。
「あ!」
「何だ」
「いや、土方さん、あの」
勿論、計画なんてものは皆無。俺は辺りを見渡して何か話の種を探した――そして俺はなぜか煙の出る家を見つけてしまった。
あれは。
「火事じゃ、ありません?」
「……あぁ。行くぞ総司」
「はい」
なんたる偶然。だが意味のない話だ。仕事をサボりたくて種を探したと言うのに、増やしてしまうなんて。だが人命のためか。
俺たちは煙が上がっている方へと歩みを進めた。既に人だかりは出来ていたが火消しは来ていない様だ。どうなってるんだ。
「おい、火消しは?」
土方さんが野次馬の一人を捕まえて訪ねた。だが野次馬は「誰かが呼びに走った」と告げるだけ。誰かって誰だ。まあ名前なんて知らない奴もいるだろうが。
それより野次馬は中に入った奴がいると騒いでいた。あの煙の中にか。火はまだ強くないがじきに回ってくる。だが立ち上る煙は既に家の中に充満しているはずだ。
その中に自ら入るか。
「ああ、新撰組の御方! うちの子を助けてやって下さいまし!」
突然一人の女が土方さんに駆け寄り、そんな事を口にした。問題ばかりが俺の前に現れて来る。それも刀の抜けない内容ばかり。
こうなったら全部をすぐに終わらせて大和屋の旦那をからかいに行こう。手合わせしてくれたらものすごく嬉しいけど、多分無理だろうな。あの人は頑なだから。
――あぁ、もう。
「土方さん手拭いお借りします」
「おい、総司!」
彼の身体に巻き付いていた手拭いをするりと抜いて、俺はそれを口に当てた。そうして煙の立つ建物の開け放たれた門を潜った。
こりゃ、長くはいられない。
そう思ったのは倒れて息絶えた男の姿を目にしたからだ。さっきの女の連れだろうか。だが四十代後半と言った所。いやそれより。