話を聞くのに夢中で、良子の手の中のコップには、まだたっぷりとカシスオレンジが残されていた。
それに気付き、ゴクゴクと流し込む。
「あ、初めてならそんな一気に飲まない方が…」
平良がそう言うも遅く、コップはすっかり空になっていた。
「いい飲みっぷり」
平良はニヤッと笑って良子の手からコップを抜き取り、「捨ててくるね」と言ってバーカウンターの方へ戻った。
良子は心なしか熱くなってきた頬を押さえながら、壁に背中をぺったりとつけて、平良を見送る。
すると平良は、途中で誰かに呼び止められた。
話しているうちに何人かが集まってきて、話に花が咲き始める。
もう戻ってこないかもしれないと思うと、つまらない気持ちになり、良子は小さくため息をついて視線を落とした。
その時、ふっと照明が落ちて、ステージのスポットライトが点いた。
散らばっていた人達がステージに向かう。
「もっと前行こう」
耳のすぐ横で声がして、
「こっち」
背中に手の感触があり、顔を上げると平良がいた。
平良の手が背中に触れていることでパニックに陥りそうになりながら、その手に促されて人の波に分け入った。