二人で並んで壁にもたれ、それぞれカクテルを飲んだ。
「バンドのメンバー見付かった?」
良子は、ずっと気になっていたことを、ようやく切り出す。
「そうそう!」
平良の顔にパッと笑顔が咲く。
「先輩に誘われてるんだ」
「ほんと!?」
これでまた平良のベースが見られると思うと顔がほころび、
「やったぁ」
心の声が、思わずこぼれる。
ニコニコとうれしそうにカシスオレンジを口に含む良子を、平良は微笑ましい気持ちで見つめる。
一人の少女が音楽にのめり込む瞬間に、自分は立ち会っているのだと思った。
あまりにあどけない良子の笑顔は、できることならこの先もずっと見守りたい、時に手を貸していきたいと思わせる。
「この後、ここのスタジオを少しだけ使わせてもらって、ジャムることになってるんだ」
「…じゃむる?」
良子は、平良の口から出た耳慣れない言葉に、首をかしげる。
「適当に楽器弾いて合わせてみるんだ。それでフィーリングが合えば、バンド組もうってことになる」
「へぇ…メンバーがいればすぐにバンドってわけにはいかないんだね」
「まぁ、クオリティを求めるとそうなるね」
平良は、手に持っているコップを揺らす。
氷がカラカラと音を立て、わずかに残った透明の液体が渦を巻く。
それを飲み干す横顔に、問いかける。
「それ、何ていうお酒だっけ」
コクンと喉が動く。
「ジントニック」
新たに知った平良の好きなものを、良子は頭にしっかりとインプットする。