坂本弁護士は、以前確かあたしに言った筈だ。


『……僕の仕事は村井君に負けず劣らず危険なものなんです。だから……これから先も、僕は家族をもつつもりはない。だから……君たち親子を守る役くらい、できたらいいなって』


彼は、自分の家族を持つかわりに、あたし達親子を見守る役を引き受けた。

そう理解し、そんな彼を尊敬さえしていたあたしだった。


「僕ももう歳かな。

人権派弁護士を気取って、今まで随分と無茶もしてきましたが、そろそろ自分なりに納得することもできました。

弁護士の仕事は、正義を貫くだけじゃない、もっと人肌に近い泥臭いものなんだって」


「だから、あたしと結婚?」


「そう言う訳ではありませんよ。

只、もう傍で見ているだけでは足りなくなった、っていうところかな……

幸い、雄太くんも、僕を慕ってくれてるようだし。

雄輝ちゃんの成長を見守る上でも、もっと君達の身近にいたいと、心からそう思うんです」


「坂本さん……」


素直に、彼の気持ちが嬉しかった。

今まで、支えてきて貰ったのは事実だし、感謝の気持ちは口では表せないほどだ。

ついこないだまで、雄太が彼とあたしの結婚を望んでいたことも知っている。