いつものバス。

いつもの乗客。

いつものコンビニ。

いつものお弁当。

いつもの帰り道。


ひとつだけ今日は違うもの・・・。

目の前に倒れている男と思われる生き物。


とりあえず見過ごすわけにはいかない。

勇気を出して話しかけた。


「・・・大丈夫ですか?」


まるで昼寝を邪魔された子供のように気だるそうに体を起こした。


「・・・って。」

「は?」


最初、何をいってるのかわからなかった。


「どこも・・・あてないん・・きょ・・だけ・・・おなかへった。」


要約すると、
「行くあてがない」
「きょうだけでもいいから」
「何か食べものを」
ということらしい。


「・・・名前も知らない人を家に上がらせるなんてそんなことできません。」


そこまで私は軽くはない。

少女マンガは好きだけど、現実と妄想はわかってる。

『カレ』はおそるおそるこっちを見上げて


「ハル・・・ハルっていうんだ。」


その瞬間。

さっきまで思ってたことなんて頭からキレイさっぱり消えたのと引き換えに
『カレ』から目を離せなかった。


「名前、わかったから、これで知らない人じゃないね♪」

「え!?」

「今日からよろしくね。」


自分の返事を待たずして、

『ハル』は、さっと私の手にあったコンビニ袋をさらっていった。


「おはし2ぜん、家にある?」

「・・・あるよ。」


急に振り返った笑顔に一瞬きゅんとなったけど、
気がつかれないようにぶっきらぼうに答えた。


「ハル・・・本当にハルって名前?」


私がそう聴くと『ハル』はまた同じ笑顔でうなづいた。