僕は、君が僕の元を離れゆく運命にあるとは思ってもいなかったんだ。


何しろ、君が何者なのかさえも理解していなかったわけだからね。



その後、僕がどうしたか想像できるかい?



あの温かい家を密かに抜け出したのさ。



どうせ家の者に大した未練などなかったんだよ。


何しろ、懇意にしていた兄弟がお先にお暇(いとま)してしまって以来、僕の存在なんか在って無いようなものだったのだからね。



随分と歩き続けたけれど、今にして思えば大した距離ではなかったさ。