生まれた時から、僕は愚かだった。
人の喋々するのに聞き耳を立てることで学びを得た僕だったが、君のことを何も知らないままだったんだからね。
ゲーテのどんな一節も暗唱してのける僕が、君の心を手に入れる言葉を一つも知らなかったわけだ。
幸せな者ほど、自分は不幸であると吹聴したがるものだが、まさに僕がそれだった。
僕は不幸だったんだ。
美味いものを食べ、温かいベッドで眠りに就く生活の、一体どこに不幸の片鱗があるのかと疑問に思うだろうか。
皮肉なもので、幸せな者は自分が不幸たり得る要素を血眼(ちまなこ)になって探すものなんだよ。
そうして、僕は僕が不幸たり得る要素を見つけたわけなんだ。