ふにゃふにゃして、全然男らしくない純平。
顔は少しタレ目で童顔。
つり目でキツいって言われるあたしとは正反対。
小顔でバランスよくて…
申し分ない。
それでいて調子いいから、先輩にも年下にも割と人気だったりする。
上下関係なく「可愛い~!」なんて騒がれちゃってる。
高校入ってからも度々告られてるらしい。
これはミカ情報。
純平ってばそういうことはあたしには話さない。
「告白されたんだって?」って聞くと、決まって「興味ないよ。桃ちゃん以外」と返ってくる。
あたしのどこがいいんだか。
今までモテた経験無し。
フラれた思い出しかない。
結局、気づけば純平と一緒にいる毎日。
最初はホントにうざかったから突き放したかったんだ。
だから、もっともっと冷たい態度をとってた。
それでも純平は離れなくて…
ある日、あたしのファーストキスが純平に奪われた。
それはとても意外な方法で。
その日から、あたしは純平に反抗できない時がある。
まるで、別人の純平――…
◇◆◇◆
音楽室。
純平とのファーストキスの場所。
防音になっているから、扉を閉めると外とは別世界。
二人だけの空間になる。
「待ってたよ、桃」
純平のお気に入りの場所になってしまった音楽室。
あたしは度々呼び出される。
セクシーな眼差しで、まっすぐあたしを見つめる純平。
もう、ふにゃふにゃした純平はどこにもいない。
「純平っ…」
軽く机に腰かけたまま、純平が優しくあたしの手をひいた。
真っ正面に純平の顔。
その瞳にあたしの姿が映るのが見える距離。
「ちっ近いよッ!」
「何が?」
「顔!距離!」
焦るあたしの様子を完全に楽しんでる純平。
ちょっと笑ってるじゃん!
それも不敵な笑み。
「全然近くないじゃん。近いってのはこういうことだろ」
「……っ!!」
そういうと純平はあたしの口をふさいだ。
……強引なキス。
冷静さを保とうとする心がいつもかき乱される。
「桃、好きだよ」
囁くような純平の声が耳の奥にジンと響く。
「桃は?」
「…えっと…あの…」
「言わなきゃもう一度キスする」
「……好き、デス。…ンッ」
ずるい。
今度はさっきよりもっと熱いキス。
純平の唇のぬくもりが、あたしを溶かして行く。
ホントずるいよ。
純平ばっかりあたしをドキドキさせて。
「桃、今夜ウチに来いよ」
「えぇっ!?」
「絶対来いよ」
「……うん」
Sキャラの時の純平には逆らえない。
あたしの弱み。
あたしを虜にした純平。
◇◆◇◆
家に帰ったあと、純平の言葉を思い出していた。
「ウチに来い」って言ったよね?
それってどういう意味?!
夜、男の子の部屋って…!
まさか、まさかだよね?
強引な純平に迫られたらどうしよう。
心の準備ができていない。
だってあたし達まだ16才。
いや…もう16才?
ミカはすでに初体験済み。
こんなことミカに相談したら笑われるよね。
「いつも強気なあんたが何言ってんの」って。
でも、本当のあたしは臆病で弱虫。
純平に好きになってもらえる資格のない、やな奴なんだ。
あたしは自分が大きらい。