「春菜ちゃん?」

いつものように食器を洗っていると
背後で急に声がして
体が大きく揺れ
お皿を落としそうになりつつ
振り向くと
起きたばかりのような
正樹くんの姿があった。

「皿なんて洗わないでいいのに?」

「迷惑掛けてるから・・・
正樹くん 仕事休みだったの?」

「んー?俺 仕事してないよ?」

冷蔵庫から ペットボトルの水を取り出し
飲みながら あっけらかんと答えた。

「え?でも いつもいないよね?」

「うん?だって
俺 学生だし?」

「え、あ・・そうなの?
あーそっか・・・
ごめん、勘違いしてた・・・」

輝樹が仕事してるから
てっきり正樹くんも仕事だとばかり思い込んでいた。

「言わなかったっけ?」

「全然知らなかったよ・・」

「あははは、俺と輝樹は正反対だからね~
っていうか、もしかして
春菜ちゃんって
俺達 家族の事 何も聞いてないの?」

「うん・・・輝樹
何も言ってくれないし・・」

考えてみれば
輝樹の家族の事を
まったく何も知らないんだ・・・

でも、聞いても
輝樹の事だから
何も教えてくれないんだろうな・・・

「俺が 教えてやろうか?
輝樹の事いろいろと」

少し おもしろがってるのか
笑みを浮かべているけど・・・

聞きたい・・・

でも、輝樹にバレたら・・・

自分の中で
必死に格闘しているけど
やっぱり 誘惑に勝てるはずもなく・・・