「あのね…今すぐって
わけじゃないんだけど…
私…引っ越す事になったの…」


「えっ？…」


僕は驚き声を上げるが、

彼女は続けた…



「お父さんの転勤が決まった
みたいなの…
４月からだから、
ちょうど私も卒業するし…
それで承諾したみたい…」



彼女の話に

僕はただ頷くしかできず…

彼女もまた、

話終わった後…

口を開かなかった…



予想もしていなかった

彼女の言葉に、

胸が締め付けられた…



やっと暗闇に光が射した…



束の間の光…



彼女が引っ越しても

メールや電話ならできる…


ただ会えなくなるだけ…



つまらない生活には

馴れている…



また前と同じ生活に

戻るだけだ…



なのに…


馴れているはずなのに…


何故…

こんなに辛い…


何故こんなに…



結局、

彼女を送り届けるまで、

２人共口を開く事はなかった…



彼女を送った後、

僕は１人で車を走らせていた…


何処に行くでもなく、

何を探すでもなく…


ただ闇の中を走る…



いや…



探していた…

自分の心の中の

彼女の存在を…



僕にとって彼女の

存在とは…



彼女にとって僕の

存在とは…




気がつくと、

僕は彼女との初デートで

行った山の駐車場に居た…



思い返した…

彼女との今までの出来事を、

全部…全部思い返した…





離れたくない！



理屈ではなく、

そう…心が叫んだ…



メールや電話なんかで

彼女と会えない心の隙間を

埋めることなんてできない…



そう自分の心の声に

耳を傾けた時…



涙が溢れていた…