コソコソ…コソコソ…

掛け持ちを 始めて数日。清掃の仕事にも慣れ始めたが、最近は忙しいのか 夜遅くまで残ってる社員が増え私は目深に三角錐…巨大マスクでコソコソと清掃している。だから 『おばちゃん…ご苦労様です!』などと声をかけてくる若い営業マンもいて…(あんたより、ず~っと若いわよ…おじさん!)などと内心アッカンベーと舌を出しているが…女は、本当に怖いんだなって実感………。一緒に、働くパートのおばちゃん達も多分私を同世代と思っているせいか よくお菓子などをわけてくれる……少し不服だが仕方がないし喜んで良いことなので、おばちゃんに徹する。

ズッズッ…と掃除器具を引きずりながら下を向いて歩きながら…(今度の休みは久々に孤児院へ顔をだそうかな?たまにはお菓子でも…)


「おっと、失礼…大丈夫かい?」

どんっという軽い衝撃に、慌てて頭を下げたが…頭上から聞こえた声は…
(ひぇ~この声って…例の……………彼?な、なんとかやり過ごさなきゃ…)心臓って、こんなにも速く動くもんなんだ…ドクドクドク…私は、頭を上げることなく慌てて横へとズレた。(どうか見つかりませんように)

「あぁ!貴様…スーツを…おいっ!!お前のような…っ」
「止せ!田嶋…何て言い方を、止さないか!」
「し、しかし…」

一緒にいた田嶋という人が、いきなり私を突き飛ばして怒鳴りつけた。私は、よろけながら驚いているあいだに彼が間に入ってくれたらしい…チラリと見ただけだが田嶋という人は、彼と同世代くらいだがギスギスとした細身に銀縁眼鏡…その上神経質っぽい。多分…潔癖だろう雰囲気を醸し出していた。(なっ、何よコイツ!!私が、ぶつかったのはアンタじゃないわよ!)などと文句が言える訳もなく…ただ何度と頭を下げるしか方法は無かった。マスクの下は、唇を噛み締めて。

「悪かったね…気にしなくていいから。これからは、お互いに気をつけないとね…」
「なっ…謝ることもできないのか!さぁ社長参りましょう…どけっ!」

黙っていると田嶋は、言い捨て彼を急かす様に通り過ぎていった…私は、暫く悔しさで動け無かったし彼の言葉すら耳に入ることはなかった。