『傘あるのに何で?』
加奈は意外と鋭かった。傘の存在に気づき、俺を見上げた。
『傘、壊れちゃってさ。開かないんだ』
また嘘をつく。
早く一人になりたくて、この場を切り抜くために、嘘をつく。
『風邪引いちゃうよ?帰ったらあったかくするんだよ?じゃあ、またね』
加奈は俺の頬を触り、足早とエレベーターを下りた。
いつもなら梨花のように、看病したいと言ってくるのに、今日の加奈は何かが違う気がした。
『加奈、今からどこいくの?』
俺は振り返り、加奈に質問をする。
加奈はくるりと振り返り、満面の笑みを浮かべた。
『彼氏とデートなの』
語尾にハートをつけた口調で加奈は言った。
『彼氏?いつ出来たの?』
『ちょっと前かな!じゃあね!』
加奈は風のように、土砂降りの中へ消えて行った。
マンションの入り口あたりから、車のクラクションの音が聞こえてきた。