ぺこりと親父に会釈をして梨花は去って行った。桜並木道を真っ直ぐ、進んで行った。
風が桜並木道に残された俺たちを包み込む。


『話は?なに?』


『ここでは…ちょっと。中で話さないか?』


なんでお前を中に入れなきゃいけねぇんだよ。
だけどここの家賃を払っているのはこいつだし…

俺はすごい躊躇ったが、仕方なく親父を中に入れた。
いつもより荒々しくエレベーターのボタンを押して、いつもより荒々しく鍵穴に鍵を挿し込んだ。

無言の帰宅。
いつもは一人だが、今日はいらないものがついている。


『意外と綺麗じゃないか』


親父はリビングに向かい、ソファーに腰を下ろした。
俺は出来るだけ遠くにいたくて、ソファーの隅の方に座った。
ネクタイを緩ませ、それを床に投げ捨てた。

息がつまる。
一緒になんていたくないのに。


早く帰ってくれよ。