「無茶を言うな。人間の寿命など私にとっては一瞬よりも短いのだから」
笑いながらわたしの涙を拭って、ぺろりと舐めた。
「海と同じ味だ」
海と同じ色の目を細めて、嗚咽を殺したわたしに口付けた。
「熱い」
「君がそうさせた」
「わたしが、じゃない。人間が、だ」
「そういうことにしておいてやろう。生まれたときはもっと熱かったのだがね」
「冷めてくれてよかった」
「私もそう思う」
「精々巡りたまえ。君の体は循環するのだから。楽しかったよ、君のお陰で。四十六億年分の記憶を思い出しても、君と過ごした一瞬が一番充実していた」
そう言って彼は、目の前から姿を消した。
「馬鹿。ミルクティー代くらい奢っていけ」
筋肉が引きつるくらいの笑いがこみ上げてきた。
涙腺が壊れるくらいの涙が流れ落ちた。
笑いと嗚咽の所為で、息が詰まって死んでしまうかと思った。
このまま死ぬのも良いと思った。
痙攣する手で触れた唇の熱は、まだしばらく引きそうになかった。