肌を刺す様な冷たい風が、朝から吹き続けていた。
起きた時には雲の間から射してした光りが重い灰色の雲に閉ざされてから、かれこれ何時間が経過しただろう。

ツンと鼻孔を刺激する染髪剤の臭いが残る髪をタオルドライしながら、窓からの景色を見ていた。

水分を含んでいる事でダークブラウンに見える髪は、乾けばミルクキャラメルみたいな色になる予定。


バスタオルを被ったままでベランダに出て、階下を見つめた。


時刻は……午後5時。
普通の中学生なら、部活動も終わってそろそろ帰宅する時間である。


あたしのいる場所は、
安っぽい灰色のコンクリート製の市営住宅の四階にある。

住宅は全部で二棟。
向かい合わせに並ぶ建物を挟んで、ちょっとした公園があって、毎日日が沈む迄子供の遊ぶ声が響いている。


それは今日も同じだ。






「あ〜〜〜、お兄ちゃん。お帰りなさ〜い。」
「お帰りなさい。」

公園で遊ぶ子供達の声に視線を向けると、よく見知った人物が声をかけてきた子供達の頭を撫でていた。



「ただいまぁ。お前ら宿題やったのかぁ?」


…宿題だって。
フフ、アイツらしい。


あたしもよく言われたっけ、「宿題やったの?」って。
少し昔の記憶の断片を思い出して、自然と顔の筋肉が緩むのを感じて、慌てて緊張させる。

というか、慌てた自分に少し疑問を感じてしまう。



視線の先の人物が子供達から視線をコチラに移した事で、
バチンッと視線がぶつかってしまった。



ヤバッ…。


とっさに部屋に入ろうとするけれど、ソレはたった一言で制止されてしまった。


「コラッ、明(アキラ)。また学校サボっただろ!!」


呆れながらも笑いを含んだ言葉に一瞬だけ肩がビクンッとあがるが、一度だけゆっくりと深呼吸をして振り返る。
そしてベランダから身体を乗り出して、


『うるさい、望(ノゾム)!!一時間目は出たもんね−だ!!』

「そんなん行った内に入んねぇっつ−の!!お陰でお前んとこの担任にプリント頼まれちまったわ!!待ってろ。今、行くから!」


距離にして、約13メートル。
ソレを駆け足で上ったらしい。


「お前なぁ………」