そしてある春の家族会議、オレの人生を変える出来事が起きた。

「壱聖、桃百合、そして虎之助。」

父さんは狭い茶室にオレ達三兄弟を呼び出した。

それぞれが背筋をピンと伸ばし、緊張した面持ちで正座している。

母さんは父さんの側で静かにお茶を立てていた。

ピンと張り詰めた空気の中で、父さんが一つ大きな咳ばらいをする。

「お前たちに重大な発表がある。して、これは既に決定事項だ。」

鋭い眼光が三人の子供たちを睨み据えた。

兄ちゃんも姉ちゃんも澄ました顔をしているけれど本当は緊張しているに違いない。
オレも無意識のうちに膝の上の拳が細かく震えた。

「何でしょうか父上?」

壱聖兄ちゃんが続きを促した。

「ウム。壱聖にはさほど直接的な関係の無い話しかもしれぬがな。」

「では、私たちに関係があるという事でしょうか?」

「さよう。特に虎之助!これはお前にとって重要な話しであるのだ」

「オ‥、オレに、ですか?」

父さんのギロリとした目がオレを見据えた。凄い威圧感だ。目を合わせているだけでじっとりとした汗が肌を被う。

「うむ、そうだ。お前は明日から転校する事になった」

「テンコウって‥、えっ!?」

「転入先は桃百合、お前の学校だ」

「私の学校‥ですか。父上」

驚いて頭が真っ白なオレをフォローすべく桃百合姉が言葉を繋ぐ。オレは状況を整理しようと大きく息を吐いた。

「そしてここからが重要な事だ虎之助。お前は明日から、『オナゴ』として登校したまえ」

「−−−−!?」

フォゴ‥ッ!!!

ショックで肺が空になるほど吐いていた空気を、また吐こうとしてしまった。
肺がとんでもない事になって、オレは酷く激しく咳込む。

急すぎる転校でさえ十分理解出来ないというのに、オナゴって、『オナゴ』ってどういう事だよっっ!?

「制服や学用品は知人の使いふるしを取り寄せた。明日は桃百合と共に登校すると良い。いいな、頼んだぞ?」

「ええ、分かりましたわ父上」

「虎之助、お前の学業氏名は土竜坂虎(もぐらざかとら)だ!」

かくしてオレ、虎之助はただの『虎』になり、波瀾万丈なオンナノコ生活が始まったのだった‥‥。