壱聖兄ちゃんは絵本代わりに参考書を買い与えられて育った。

桃百合姉によるといつも道場の掛け声を聞きながら、縁側でナントカの法則やらナントカの定理を楽しそうに眺めていたそうだ。

壱聖兄ちゃんが学問に対する拒絶反応を起こさなかったのは、兄ちゃんの趣味が学問だったおかげだとオレは思う。


次いで桃百合姉ちゃんは舞やら書道やらはどうにかやってのけたものの、お抹茶はいつも部屋中に飛び散らせてしまうし、華道においては師匠に『ある意味芸術ですわね』と引導を渡されてしまった。


そしてオレは土竜坂流の伝統剣術やら体術を毎日稽古させられた。体がボロボロになっても続く鬼のような稽古が嫌で嫌で、よくオレは二人の兄と姉の背中に泣き逃げたものだった。それでも稽古は永遠と続き、軟弱なオレでも人並み以上には強くなっていた。

まぁ、趣味はクロスステッチだったけどな‥。