「っしゃ、出発!」



奏兄は、
自転車を進めた。



「なぁ、海翔」

「・・・?」

「俺も、兄貴も。
 海翔は海翔だと思ってる」

「え?」



信号待ちで、
よく聞こえる奏兄の声。



「どんな海翔でもいい。
 俺らはいつも味方だよ」



それ以上奏兄は、
何も言わなかった。



「・・・っ」



あふれる涙を、
堪えることはできない。

学校に着くまで、
ずっと泣いていた。

ゆっくり進める、
奏兄の優しさが。
2人の優しさが、
あたしの心に染みた。



「目、腫れてる」

「やば・・・」

「泣き虫だな」

「うるさい・・・」



また、奏兄は
あたしの髪を撫でた。



「ほら、頑張って来い」

「奏兄に言われたくない」

「ん。サボるから?」

「・・・うん」



奏兄、ごめんね。
ちゃんと知ってるよ。

本当は、
行くんだよね。

あたしのために、
遅刻するんだもんね。