「奏兄・・・」

「そうやってずっと、
 奏兄って呼んでくれな」

「うんっ」



最後は笑った。
ここで泣いたら、
今までの、この関係が
崩れてしまいそうで―――。



「海翔」

「あっ、お兄」

「全部聞いてたよ」

「え・・・」



当たり前だった。

自販機はすぐそこ。
時間は掛からないから。



「あたし・・・、
 知れてよかったよ」

「海翔が20歳になるまで、
 言わないつもりだったんだ」

「・・・ごめん、兄貴」

「いや。いいよ。
 海翔は、強かった」



奏兄とお兄が微笑む。
あたし、超幸せ者かも。

お兄ちゃんは優しいし。
親友もいるし。

お父さんはいないし、
お母さんもいないも同然。

だけど、その穴は
お兄達が埋めてくれる。

・・・辛くなんてない。



「あたし、帰るね」

「傘貸す?」

「あ、借りるー」



病室にあった
折り畳み傘を、
お兄は差し出した。



「じゃあ、明日ね」

「うん。帰るのは
 多分昼頃になるから」

「分かった。奏兄、
 ちゃんと安静にしてよ?」



おぅ、と
ピースをした。

・・・懐かしいな。

あたしも、笑顔で
ピースを返した。