「話って?」

「・・・うん」



先輩には前、
母親いないも同然
って、言ったことがある。

付き合うわけだし、
全部、話さなきゃ。



「海翔?どした?」

「・・・あの、ね。
 母親、いないも同然
 って言ったの覚えてる?」

「あ・・・、うん」

「仕事優先の人なの。
 顔なんて覚えてないし、
 ・・・最低な人・・・。
 お父さんは昔、
 事故で、死んじゃって」



震えるあたしの手を、
先輩が優しく包み込んだ。

その温もりに、
・・・安心した。



「家事は全部お兄がやって。
 お兄なんて・・・、
 学校、バイトって・・・
 ただでさえ忙しかったのに」

「・・・ん」

「でも、お兄ね・・・。
 弱音なんて吐かないの。
 いつも笑顔なんだ・・・。
 そんなお兄を見る度に、
 お母さんが許せなかった」



・・・だって。

無理に笑ってることを、
あたしは知ってるから。



「お兄を苦しめ続ける。
 連絡も全然なくて、
 仕事にしか興味ない。
 ・・・はずなのに・・・」



今さら、帰って来るなんて。
そんなこと・・・。



「海翔?」

「・・・帰って来るって」

「え・・・?」

「お母さん・・・。
 帰って来る、の・・・」



涙が零れた。

あの人のために、
涙なんて・・・。

流す価値もないのに。
ないはずなのに・・・。