俺は惨めに浜辺をのたうち回った。
口からは涎なのか血なのかわからないが、何かの粘液が溢れている。
ルナももがき苦しんだに違いない。
その苦しみを理解してやる事は出来ないけれど、今俺が感じている苦痛がそれに少しでも近付いていてほしいと思う。
「あ…りが…と」
俺は何とか女にそう告げる事が出来た。
彼女にとって、これが一番の痛めつけ方だったに違いないと思ったから。
なぁ、ルナ。
俺、また間違ったのかなぁ。
死ぬのはやっぱり卑怯な事だよな。
お前の苦痛も背負って生きるべきだったのかなぁ。
これは、罪滅ぼしの選択じゃない。
ただ、自分が苦しくて仕方なかったから。
生きていられないと思ったから。
最低だよな。
自分に甘すぎだっつーんだよ。
嫌だから逃げるなんて、子供のする事だよな。
でも、自分から死を望んだ事、後悔はしないと思う。
死んだら何もわからなくなって、後悔なんて出来ないのかもしれねぇけどな。
あぁ、なんだか眠くなってきた。
本当に、俺の人生は終わるんだ。
このまま目を閉じれば、お前に会える。
待ってろ。
兄ちゃんもそっちに行くからな。
たくさん怒ってくれ。
俺は、薄れゆく意識を自らシャットダウンするかのように、目を閉じた。
目が覚めると、そこは真っ暗だった。
いや、真っ黒だった。
自分の身体にだけ色が付いている。
っつーか。
何で目覚めてんだよ。
俺、さっき死んだはずなんだけども。
え?
もしかして死んでない?
いや…
まさかな。
「おーい」
「おーい」
2人の子供の声が交互に聞こえた。
誰かが誰かを呼んでいる。
俺を?
「そこの人」
「そこの人」
まぁたぶん、俺なんだろうな。
どうして続けて同じ事を言うのだろうか。
それに、声を出している人物の姿が全く見えない。
「俺?」
確認してみる。
「そうでーす」
「そうでーす」
ちょっとうっとうしい。
「あ、今うっとうしいとか思ったでしょ。リュウのバカ」
1人がそう言った。
バレてるし。
名前も知ってるし。
呼び捨てだし。
「えーっと、誰ですか?」
とりあえず上に向かって丁寧語で聞いてみた。
「もうちょっとこっちに来たら教えてあげるよ」
1人がそう言うと、目の前がパーッと明るくなり、一本の道が現れた。
光の道?
「歩いて来てー」
今度はもう1人が言った。
この2人、どうやら男女らしい。
何だかよくわからない状況下に置かれているが、とにかく従うしかない。
俺は、突如出現した得体の知れない道を歩き始めた。
数分歩くと、ゴールらしき場所が見えた。
2人の人間の姿を確認出来る。
もう少し歩いて、その場所に到着した。
「おつかれさまー」
「おつかれさまー」
だから、一回でいいって。
目の前には10歳にも満たないであろう子供が2人。
2人共髪が真っ赤で、口を閉じていても八重歯が飛び出している。
絵本で見る子鬼のようだ。
単純に可愛らしいと思った。
「ここに来れば、お前たちが誰だか教えてもらえるんだったよな?」
俺は、どちらを見る訳でもなく言った。
「んっとねー、えんまさまなんだ」
女の子がそう言った。
えんまさま…
ヤバい。
話が見えない。
「はい?」
我ながらかなりとぼけた声だったと思う。
「だからぁ、俺たちはえんまさまなんだって!」
男の子が少し苛立った様子を見せた。
えんまさま…
閻魔様…?