俺は野球部のみんなに連絡をしてから病院へ向かうと、集中治療室の前に千比絽がいた。


千比絽は泣いていない。


「西條は大丈夫か。」


千比絽は俺を見て軽く微笑む。


泣いていいのに。


「弘也は死んだりしない。私を一人にしないって約束したから。」


だから弘也は大丈夫だと、何度も千比絽が言う。


そんな千比絽を抱き締めずにはいられなかった。


本当は不安で泣きそうなのを千比絽は必死に耐えている。


「弘也は死なない。」


その時集中治療室から、若い医師が出てきた。


その医師が千比絽に近寄ると。


「弘也はもう大丈夫だら、安心しなさい。二三日は入院して貰うことになるけど。千比絽は弘也の着替えを頼むな。」


千比絽が嬉しそうに頷いた。


千比絽はこの医師とも仲良しなのか。


おまえは本当に良い子なんだな、どんな奴にも好かれて、どうしようもなかった弘也まで虜にして、ある意味凄い女だよ。


千比絽が魅力的な女と言うことなのか。


誰かを本気で好きになったことがない俺は本気で好きになる事すらわからない。


西條と出会う前の千比絽に会えたなら、俺にも微かな望みがあっただろうか。