本当は素直になれたらどんなにいいかと思う。


千比絽といたら楽しいかも、なんて自分らしくないことを思ってみたり。


バカバカしいから、やめて置こう。


千比絽の笑顔がまぶし過ぎる。


西條が千比絽に惹かれた気持ちが何となく分かった。


俺はこの場から逃げたい気持ちを必死に隠す。


千比絽に見透かさせたくない。


俺もおまえみたいに、一生懸命になれるものを探してみていいのかな。


俺は敗けを素直に認めることにした。


「俺は千比絽に嫉妬してたんだよ。女の癖に野球に必死に食らいつく姿が眩しかった。」


頭を下げる俺を千比絽が真っ直ぐ見据えた。


なぜが千比絽が笑いだす。


「私が工藤哲の娘だから、嫌ってるのかと思った。」


俺の親父と違って、工藤哲は有名なピチャーだった。


その工藤の娘の千比絽に嫉妬してのは確かだが。


もし、まだ、俺の事を監督として認めてくれるなら、頑張りたい。

「みんなが俺で良ければ、野球部の監督を続けさせてもらいたい。千比絽も野球部の一員として認める。」


千比絽の笑顔には本当に叶わない。


「星野監督、ありがとうごさいます。」


千比絽が俺に抱きついた。


不覚にも千比絽にドキッとしてしまう。


「星野監督、くれぐれも千比絽には手を出さないで下さいよ。千比絽は俺のなんで約束して下さい。」


分かってるよ、そんな簡単に俺は素直にはなれないんだよ。


西條の目が怖い。


「西條も千比絽をしっかり捕まえて置くんだな。」


千比絽が西條に笑顔を向けた。


俺に向けた笑顔とは別物の。


「私は弘也を嫌いになる事はないから、心配しなくていいよ。」


千比絽が西條に注ぐ愛情は嘘偽りのない本物だ。


俺もそんなに思える女にこの先出会いるのだろうか。


一途に一人の人を思う深い愛。


真剣な恋をしたくなった。