私がベットを離れようとすると、手を捕まれた。


え、誰、もしかして、西條先輩ですか。


恐る恐る、振り返った。


「勝手な事ってんだよ。甲子園へ一緒に行くって言っただろうが。なんで、一人で行こうとしてんだよ。」


嘘だ。


本当に西條先輩が話してるんだもの。



「だって、西條先輩が目を覚まさないから。」


「おい、泣くな。」


「泣いてない。」


「泣いてるだろ。」


ずっと、バカみたいな言い合いが続く。


涙が止まらないよ。


嬉しくても涙は溢れるんだ。


「西條先輩が本当に生きてるよ。」


西條先輩の頬に手をあてると暖かい。



「おまえはバカか。俺が死ぬ訳ないだろ。」


でも、だって、もうやだよ。


こんな思いを二度としたくない。


「可愛いな。千比絽は。」


可愛くなんかないです。


「もう、からかわないで下さい。あ、小林先生呼ばないと。」


小林医師も驚いていた。


西條先輩の強い生命力を感じる。


「弘也やったな。よく頑張った。これから根気よく治療すれば、なんとかなる。野球を続けるのは無理だけど、普通の生活は送れるよ。」


本当に良かった。


生きていてくれてありがとう。


お父さん、ありがとう。


神様はやっぱいたんだね。