ふいに、
彼女は僕の手元に視線を
落とすと、

「絵を描かれるんですか?」
と、興味ありげに訊いた。

「えっ‥、あっ‥はい。
僕、一応 美大に通って…」


ゴホンッ



突然、誰かが咳ばらいを
した。
よく見ると、周りの視線があることに気付く。



#####『話をするな』#####
#### というコトだろう ####



周りの視線を避けるように少し肩をすくめ、
僕は彼女の方へと視線を
戻す。
すると、彼女も同じように少し肩をすくめながら、
僕の方を見ていた。

お互いに目が合い、
僕たちは声を出さずに
笑い合った。
僕は紙の切れ端に


『また、後で話そう』


と書いて、彼女に渡した。
彼女はニコッと
笑って頷き、
僕も彼女に笑って返した。




そして、
彼女は本を読みながら、
僕は課題をしながら、

その場を
静かに過ごした。