ふて腐れたような
私の言い方が可笑しかったのか
ユウは一瞬だけ視線を私に向けて
「だよな」と笑うと

さっき始まったばかりの
アメリカのハードコアバンドの
ライブ映像を見たまま
「でも――」と言葉を続けた。


「確かに記憶とか思い出は
時間と共に美化されたり
風化されるって言うし?
目に見える確かな物が
欲しいのかもしれねーけど

そんなんで無くなったり
変わったりする記憶なんか
結局たいしたものじゃねーんだ。

ちゃんと大事な物は
いつになってもちゃんと
自分の中に残ってくはずだろ」


……何、それ。


「………。
そういえばあんたのバンドって
どんな音楽やってんの?」

「は?
今話の流れおかしいだろ?
俺のさっきの話に対する返事は
いったいどこいったんだよ」

「うるさいなあ。
いちいちそんな小さいこと
気にしなくていいよ。
急に気になったんだもん
B型だから私」

「……すぐに
血液型の話するよな女って
そういうのもセクハラの一種らしいぜ」

「あんたこそ
話題変えようとしてるでしょ。

ねぇ、どんなのか教えてよ?
王道ロック?
プログレ?パンク?
ハードロック?エモ?
……まさか
テクノ系ってことはないよね?」

「タダじゃあ
おしえられねーな」

「そんな勿体ぶる必要あるわけ?
じゃあ別にどうでもいーよ。
……あっ今のギターソロ
凄いカッコイイ!」

「えーそうか?
ありきたりだろ。
俺だったらもっと――」


そうやってユウが指摘した通り
わざと話の方向を変えながらも

胸がズキズキと
足を怪我したときよりも
静かだけど深く、染み入るような痛み。


そう、私は
心のどっかでわかってた。

さっき彼の口から
凄く、大事な事を
言われたかもしれないって――。