「……あのケンって人は?」

「ああ、アイツならさっき帰った。
オレンジジュースも拭かないままで
慌てて飛び出して行った。

あとお前に“悪い”って
謝っといてくれって」

「何が?」

「“ウジウジ格好悪いとこ見せてごめん
おかげで目が覚めたー”だって。
あと俺からもサンキュー」

「……意味わかんないんだけど」


ユウには攻められるこそすれ
お礼言われる理由なんか
全く浮かばない。


「アイツがあんまり
情けないことばっかり言うから
怒りを抑えるの大変でさ。
お前がケンにジュースぶっかけなきゃ
俺きっと煙草の火
あいつの腕に押し付けてたね。

お前の短気な性格のせいで
あいつも命拾いしたな」


そう不適に笑うユウを見て


「あんたって有り得ない」


煙草の火って
自分の方がよっぽど危険人物じゃない。


「まーいーじゃん
そういう事だからケンの事は心配すんな。
そのうちケロッと家にくんだろ
さっきの事もすっかり忘れて。

……ところでお前
料理とか出来る?」

「出来ないけど」

「んーだと思った。
仕方ねーから昼飯俺が作ってやるよ。
だから手伝え」


何事もなかったみたいにそう言って
私の返事も聞かずに
ユウは部屋から出ていってしまったから

仕方なく立ち上がって
一人呟いた。


「――本当
有り得ない奴」