何かに導かれるように
そのまま一歩一歩足を進めた。


早朝の海水の冷たさが
段々と足全体に広がる。


水底の細かい砂の粒はやがて
ゴツゴツとした大きな石の固まりになり
足の裏にガリッと何か踏んだ感覚の後
鋭い痛みが広がった。


結構深く足を切ったかも知れない。


でもそんなのたいしたことじゃない。
どうせ結末は同じだから。


海風に長いストレートの黒髪が舞い上がり
片手で押さえながらさらに足を進める。


海水はやがてデニムのスカート
更に白いタンクトップの裾をも
濡らし始めた。


……こんなの自分でも
愚かな事だってわかってる。

でもケイのいない未来に
希望なんかもてない。

どうせなら
最期はケイのそばで眠りたいから。


海水が体内の血液を冷やし
体温をどんどん奪っていき
身体が小刻みに震えた。


ケイも死ぬ時
こんな風に凍えるような寒さを
感じたのかな?


願うのは
ここよりも強いカリフォルニアの日差しが
ケイの沈んだ海水を照らし

彼にこんな寒さを
感じさせる事がなかったといいなって事。


温かく綺麗な海の中で
穏やかに
眠るように
彼が最期を迎えていますように。


……ごめんねケイ。

私はあなたに色々な物をもらったけど
私は何も返してあげられなかった。

命を終えなければならないほどの
あなたの苦しみを
取り除いてあげられなかった。

ケイが前に言った通り
この世には
ピンチの時にかけつけてくれる
都合のいいヒーローなんて
どこにもいる訳ないから。