「でもー
バンドってある意味人気商売じゃん?
それなのにこの若さで妻子供とかって
かなりヤバクネ?

それに今1番いいときなのに
1人の女に決めなきゃいけねえなんてさー
俺堪えられるかな」


――もうダメ
我慢、出来ない。


「……さ…ないおとこ」

「は?何?」

「たから情けない男って言ってんのよ!」


あまりに腹が立ちすぎて
頭と身体が制御不能になって
そう怒鳴り声を上げながら

手に持ったマグカップごと
ケンに向かって投げ付けた。


「痛っ!!」


ケンの額に当たったマグカップが
彼の顔と身体に
オレンジジュースを撒き散らしながら
ゴロリと床に転がる。


そうしてまだ
自分に何が起こったのかわからず
呆気に取られた様子のケンを

嫌悪感のたっぷり入った
鋭い視線で睨み付けた。


「あんた最低の男。
彼女が大変な時にこんなとこ来て
何自分勝手な言い訳してんの?

こんな朝から彼女が打ち明けたのも
多分悩んで悩んで耐え切れなくなって
時間なんか考えられないぐらい
切羽詰まったからじゃないの?

なのに、そんな彼女
よく置き去りに出来たもんね?」

「………」

「あんたみたいなクソ男
父親になんかなれる訳ない!
子供だってそのほうが幸せだよ。

……子供は親を選べない
それって最大級の不幸だわ。
あんたみたいなのが父親なんて、
だったらその子
生まれてこない方がきっと――」

「――アキ!」


私の言葉を遮るように
諭すようなユウの声が響いて
全身がビクッと震えた。


――私、……今何言った?
私には全然関係ないことなのに。


……でもどうしても許せない。


唇を強く噛み締めて
小刻みに震える手を
反対の手で押さえるようにして
ゆっくりと立ち上がり


「私……ま、まだ身体だるいから
ちょっと寝る」

「ん」


相変わらず何考えてるかわからない顔で
静かに煙をはくユウにそう告げると

びしょびしょのまま
暗い目をしたケンをそのままに
自分勝手に寝室に駆け込んだ。