私の足に綺麗に包帯が巻かれていくのを
ガラステーブルに頬づえをついて
ジッと見ていたケンは

暇に堪えられなくなったのか
ユウに向かって頼りなさげな声を上げた。


「でさーさっきの話だけど
俺どうしたらいいと思う?」

「知るか
お前の問題だろが。
自分で考えろ」

「つめてーリーダー。
バンド仲間のピンチは
仲良く分け合おうよ」

「あ?
てめえのプライベートまで
いちいち考えてられっか。
あいにくそんな暇じゃない」

「ひっでー!」


私の関係ないところで交わされてる会話に
ひそかに眉間にシワをよせると
はたと気付いたケンが
床の上からニヤリと私の顔を覗き込んだ。


「さっき言い忘れたけど
俺コイツと同じバンドで
ベースひいてんの。

んでー今日ここに来たのは
彼女が子供できちゃってさ
こりゃやべえってんで
相談にきたってわけ」

「子供……」


楽天的なケンの様子からは
全く想像も出来なかった深刻な話に
驚いてただ彼の言葉を反復すると
ケンはわざとらしく頷いた。


「っそ!
言っても俺まだハタチだしさ、
この歳でパパになるなんか
思ってもみなかったから
パニクっちまって」

「だからってこんな朝早くから
人の家おしかけんな」

「だってよ、
里沙が起きぬけでんな事言うから
結論も出ないまま思わず
タバコ買いに行くっつって
家出てきちまった」


私の手当を終えたユウは
何を考えてるかわからない
無表情な顔をうかべると

テーブルの上の煙草を手に取り
慣れた様子で火を付ける。


「……で
里沙は何て言ってんの?」

「もし俺が父親になるの無理でも
一人で産んで育てるって。

んな事言われても
“ハイそうですか”って
見捨てられるわけねーじゃんか?
オイオイちょっと待ってくれって
なるじゃん」


――マグカップを持った手が
ブルブルと震える。