小さめの洗面所で服を脱いで
グレーのタイルに囲まれたお風呂場に
足をそっと踏み入れると

群青色のバスタブに
たっぷりとお湯が貯められてて
空中にモクモクと湯気が立ち込めてた。

水滴の束がツーッと
競うように壁を流れる。


アイツが湯舟に入る時間が
あったとも思えないし

どう考えてもこれは私の為に
入れてくれてたんだってわかったから
まだどうしようもない気持ちになる。


シャワーで頭と身体を洗ってから
ちょっと覚悟をして
ゆっくりとバスタブに足を沈めていったけど
思ったより傷口は痛まなかった。


少しぬるめの
肌にじんわりと馴染む温かさ。

アゴのラインまで湯舟につかると
身体中の疲労感が
お湯のなかに静かに溶けるような感覚。


出会ったばかりの人の家で
こんな風に無防備にお風呂に入るなんて
普通じゃありえないことだ。

なんだかすごく
自分がバカみたいに思えてくる。


でもアイツと過ごしてると
今まで感じたことがない
不思議な感情で
心の中が埋め尽くされる。


……モヤモヤ、モヤモヤと
形容できない
不確かな感情。


するとまた
この感情が蘇って来て
凄く、耐え切れなくなって

バスタブの中で膝を抱え
ブクブクと顔を水中に沈めていった。